エンジニアの市場価値の調べ方|転職を決める前に、今の経験と希望条件を確かめる

評価面談で「よくやってくれている」と言われても、それが社外でどのくらい通じるのかは分かりません。 同じ会社に何年もいると、比べる相手は同じ部署の先輩と後輩だけになります。 求人を眺めれば年収の数字は並んでいるのに、自分がその数字のどこにいるのかが見えない。
僕もそうでした。 会社員時代、SNSでモダンな技術を扱うエンジニアを見ては、レガシー寄りの自分と比べて「このままじゃ市場価値が上がらない」と焦っていました。 フリーランスで月単価80〜100万円という話を見かけても、本当なのか信じられませんでした。 外の数字が、自分の話として入ってこなかったんです。
市場価値は、人としての価値ではありません。 一つの金額で決まる点数でもありません。 どんな経験を、どんな条件で、誰に求められるか。その組み合わせで、検討できる仕事の範囲が変わります。
調べ方の結論はシンプルです。 経験と希望条件を書き出し、公開求人や登録不要の診断で目安をつかむ。 具体的な候補が知りたくなったら、経歴と条件を伝えて相談し、「見立て」「紹介」「選考後の条件」を分けて確かめる。
転職するか、独立するか、今の会社に残るか。決めるのは、そのあとで十分です。
市場価値の調べ方は、知りたいことに合わせて選ぶ

上の図のとおり、方法によって分かることが違います。 中古車の査定に近い構造です。年式と走行距離を入れるだけの概算、実車を見てもらう査定、実際に売れた金額。どれも「その車の価値」ですが、確かさも手間もまるで違います。
| 方法 | 分かること | まだ確定しないこと |
|---|---|---|
| 公開求人 | 近い職種や工程の募集条件、金額の幅 | 自分が応募して通るか、幅のどこで採用されるか |
| 登録不要の診断 | 入力した経験年数に近い人の年収水準の目安 | 自分個人への提示額、紹介される仕事の中身 |
| 経歴を伝える相談 | 紹介できそうな仕事、評価されそうな経験、足りない条件の見立て | 選考の結果と、最終的な条件 |
| 選考・商談 | 企業による個別の評価と、その段階で示された条件 | 最終的に合意する条件や、働き始めてからの実態 |
4つを上から順番に全部こなす必要はありません。 いま知りたいのが「相場」なのか「自分に合う具体的な仕事」なのかで、選ぶ方法が変わります。
相場の目安なら、公開求人や登録不要の診断から確認できる
手間がいちばん小さいのは、公開求人を見ることです。 職種、担当工程、使う技術、出社の条件が自分に近い求人を3〜5件ほど拾い、金額の幅を見ます。 求人の金額に幅がある場合、上の数字が自分の年収になるわけではありません。たとえば「450万〜700万円」は、ここでは説明用の架空の金額です。幅の上の方は、求める経験をすべて満たした人を想定していることもあります。
もう一つが、登録不要の年収診断です。 たとえば転職ドラフトの年収診断は、会員登録なしで使え、企業が実際に提示した年収のデータをもとに算出すると案内されています。
出典:転職ドラフト「年収診断」
便利な一方で、運営元のエンジニアは、診断結果は平均的な年収水準を示すもので、正確な市場価値や提示年収を保証するものではないと説明しています。公表された検証では、予測額と提示年収の平均絶対誤差は96万円でした。これは個々の診断の誤差上限ではありません。
出典:LIVESENSE ENGINEER BLOG「転職ドラフトの年収診断機能の仕組みと注意点」
診断に入力するのは、技術や職種ごとの経験年数です。 つまり、同じ年数でも「何を任されてきたか」の違いは、まだ数字に入っていません。 診断額は、自分の値段ではなく「近い経験年数の人の目安」として読む。それで十分役に立ちます。
らんこ高く出ても低く出ても、ここは入口の目安。一喜一憂しなくて大丈夫ですよ
自分に合う仕事を知りたいなら、経歴と希望条件を伝える
目安が分かると、次に気になるのは「じゃあ、自分は実際にどんな仕事を検討できるのか」です。 ここは経験年数だけでは決まりません。 担当してきた仕事の中身と、出社の頻度や働ける時間、収入の希望を伝えて、初めて候補が具体的になります。
経歴を登録すると、予測年収やスキルの指標を出してくれるサービスもあります。 LAPRASは、職歴やスキルをもとにオファー年収を予測する機能や、同じ経験年数のエンジニアが受け取っているオファー年収と比べる機能を案内しています(画面の利用には会員登録とログインが必要)。
出典:LAPRAS株式会社のプレスリリース(PR TIMES、2026年3月26日)
ここで混ぜてはいけないのが、情報の段階です。
- 予測:データから算出された年収や指標
- 見立て:担当者が経歴を見て「このあたりなら紹介できそう」と考えた範囲
- 紹介:実際に提案された求人や案件
- 選考後の条件:企業との面接や商談を経て示された条件
この4つは、確かさが違います。 メモに書くときも、どの段階の情報かを必ず添えてください。
相談先は、何と比べたいかで選びます。 正社員の転職先を比べたいなら転職エージェントや転職サービス、独立も候補に入れたいならフリーランスエージェント。全員がフリーランスの相談をする必要はありません。
まず、外で確かめたい経験と条件を一枚に書く
言語名だけでなく、任された役割とできる仕事を整理する
経歴を聞かれて「PHP、Java、MySQL」と言語名を並べるだけだと、相手が判断できるのは、ほぼ経験年数だけです。 dodaは、転職の選考では担当した工程や職種、プロジェクトの規模、任された責任範囲、課題への対応などが確認されると説明しています。経験は「担当業務、責任範囲、行動、成果」の順に具体化すると、強みや活かせる市場を把握しやすいそうです。
出典:doda「エンジニアとしての市場価値を高めるためには?診断方法・評価される人の特徴」
一枚に書くのは、次の5つです。
- 使ってきた技術
- 担当した工程(要件確認、設計、実装、テスト、運用など)
- 自分で判断して進めたこと
- チームでの役割
- まだ経験していないこと
最後の「未経験のこと」は、書きたくない項目だと思います。 でもここが空欄だと、相談したときに「足りない条件」を聞いても、話が噛み合いません。
記入例(説明用の架空の例です)
| 書き方 | 内容 |
|---|---|
| 言語名だけ | PHP、Java、MySQL |
| 役割とできる仕事まで | PHPで社内向け業務システムの改修を担当。仕様の確認から実装、テスト、リリース後の不具合調査まで一人で受け持てる。既存の設計書を読み解いて修正はできるが、新規システムの全体設計は未経験 |
下の書き方なら、相手は「既存システムの改修を任せられる人」と具体的に想像できます。 同時に「新規設計を求める仕事は合わないかもしれない」という確認もできます。未経験の部分まで書いておくと、仕事との適合を具体的に相談しやすくなります。
僕自身、独立前に、Cでの開発経験について、企業からコードを読む力は十分にありそうだと評価されたことがあります。 Cの開発経験から、コードを読む力も評価してもらえたという例です。 言語名の一覧には、この「コードを読む力」はどこにも書かれていません。 もちろん、C++の経験があれば誰でも同じ評価になるわけではありません。経験から何ができるようになったかを言葉にしておくと、評価される材料が増える、という一例です。
正式な職務経歴書やスキルシートに書き起こす段階になったら、スキルシートの項目別の記入例とNG例が使えます。
収入だけでなく、続けられる働き方の条件を添える
経験の次は、条件です。
- 収入の希望(最低ラインと、できれば欲しいライン)
- 出社の頻度と、通勤にかけられる時間
- 働ける時間帯
- やってみたい仕事、避けたい仕事
「家族がいるから、外の評価を調べても動けない」と感じる人もいると思います。 でも、条件を書き出すことは、転職することでも退職届を出すことでもありません。 家族の生活を守るための条件を、先に紙に書いておく作業です。
むしろ家族がいる人ほど、条件の付いていない市場価値の数字は使えません。 年収が100万円上がる求人でも、週5日の出社で通勤が往復2時間増えるなら、その金額は自分の答えにならない。数字だけ見て心が揺れる前に、外せない条件を決めておく必要があります。
もう一つ、自分の希望と、市場の評価は分けて考えます。 たとえば「出社なし」を外せない条件にした結果、候補が少なかったとしても、能力が低いと決まったわけではありません。経験と希望条件のどこで合わなかったのかを、分けて確認します。



"外せない条件"と"できれば欲しい条件"に分けておくと、比べるときに迷いませんよ
候補の案件を単価や出社条件まで細かく比べたい人は案件の選び方と確認ポイントを、新しい技術を経験できる環境も探したい人は年収を下げないスキルアップ転職の考え方を参考にしてください。
求人・診断・相談で分かったことを、同じ項目に並べる


上の図は、調べた結果を書き込む一枚メモの例です。 本文用に作った整理表なので、自分の状況に合わせて行を足しても構いません。
| 記録する項目 | 自分の現状・希望 | 外で確認できたこと | まだ分からないこと |
|---|---|---|---|
| 担当できる仕事・役割 | |||
| 経験が評価された点 | |||
| 出社・時間・稼働条件 | |||
| 金額の種類と前提 | |||
| 見立て/紹介/選考後の条件 | |||
| 次に一つ確認すること |
1行目の記入例(架空):担当できる仕事・役割|PHPの既存システム改修(仕様確認からリリースまで)|近い条件の公開求人が複数あった|新規設計を求められたときにどう評価されるか
求人で見た金額、診断の金額、相談で聞いた見立ては、同じ行に並べて書きます。 別々のメモに書くと、あとで比べられません。
金額の前提と、応募・紹介の条件を確認する
金額を書くときは、数字と一緒に次のことを残します。
- 金額の種類(正社員の額面年収か、手取りか、業務委託の月額報酬か)
- 対象の職種と役割、求められる経験
- 出社や時間などの条件
- 確認した日と、情報の段階(公開求人、診断、見立て、選考後)
金額の種類を混ぜると、比較がそもそも成り立ちません。 僕の例でいえば、会社員時代の手取りは月32万円、独立直後の業務委託の単価は月60万円でした。 前者は税金や社会保険料が引かれたあとの金額、後者はそれらを自分で払う前の売上です。物差しが違うので、単純に「約2倍」とは比べられません。
独立後に生活費として残る金額まで確かめたい人は、フリーランスエンジニアの手取りの考え方で整理しています。
担当者には、評価された経験と足りない条件を聞く
相談の場では、金額だけを聞いて終わらせないのがコツです。 たとえば、こんなふうに聞けます。
- 「今の経歴と条件だと、具体的にどんな仕事を紹介できそうですか?」
- 「その中で、私のどの経験が合っていると見ていますか?」
- 「出社や時間の希望は、その仕事で満たせそうですか?」
- 「希望に届かない場合、何が足りないと考えられますか?」
- 「今の金額は見立てですか、それとも選考を経たあとの提示ですか?」
5つ目だけは、毎回聞いてください。 見立ての金額を確定した条件と思い込むと、選考後の提示との差に振り回されます。
答えはその場でメモの「外で確認できたこと」と「まだ分からないこと」に振り分けます。 登録したあとの連絡や、情報収集だけで相談する気まずさが気になる人は、エージェントに「登録だけ」はアリかを書いたページを先に読んでおくと安心です。
僕は会社員のまま案件を探し、紹介と選考の違いを知った
10件以上紹介されても、全部の案件に進んだわけではない
僕は会社員として働きながら、エージェントへの登録、面談、案件の決定まで進めました。 退職届を出したのは、案件が決まってからです。
最初に紹介された案件は10件以上ありました。 その日のうちに届いたのは5件ほど。 数字だけ見れば、選び放題に見えます。
ところが、企業との商談まで進んだのは2〜3社でした。 書類選考で落ちた案件もあります。
紹介された数と、実際に商談まで進んだ数は違いました。
紹介は「この経歴なら検討の余地がある」という段階で、通過の約束ではありません。 紹介の件数を、そのまま自分の市場価値だと受け取るのは危うい。メモの「見立て/紹介/選考後の条件」を分けるのは、このずれを記録に残すためです。
技術テストや、自分の技術力が現場で通用するかの話は、フリーランスエンジニアに必要な技術力にまとめています。
2社の提示額の差も、仕事内容や条件と一緒に見る
独立したとき、僕は2社のエージェントに登録していて、両方から案件の提案を受けました。 レバテックフリーランスが紹介した案件のほうが、もう1社の案件より月7〜10万円ほど単価が高かった。
ただ、これは同じ案件を2社に見積もってもらった比較ではありません。 それぞれが紹介した、別々の案件の比較です。 仕事内容も条件も違うので、この差から「どちらの会社が高いか」は決められません。
単価が高い案件が、仕事内容や出社の条件まで合っているとは限らない。 今の僕が案件を選ぶときの優先順位は、単価、フルリモート、スキルの順です。単価を一番に置いていても、優先順位がある以上、ほかの条件と並べて比べることになります。 提示額の差を見つけたら、メモの同じ行に、仕事内容と条件も並べて書いてください。
結果が分かったら、次に確かめることを一つ決める
調べた結果は、だいたい次の4つのどれかに当てはまります。 どの場合も、次にやることは一つで十分です。
希望に近い候補がある
- 業務内容と最終条件を確かめる。見立ての段階なら、選考を経た条件で同じ内容が示されるかを確認する
- 転職や独立を決めるのは、その条件が書面で分かってからでも遅くありません
金額は高いが、条件が合わない
- 外せない条件は動かさない
- どの条件を変えると候補が増えるのか(出社頻度、時間帯、仕事内容)を担当者に聞く。条件を緩めるかどうかは、そのあとで自分が決める
候補が少ない、紹介がない
- 能力不足と即断しない。対象の領域、時期、伝えた経験の情報量、求められる経験のどこでずれたかを確認する
- 経験の書き方を具体化してから、もう一度確かめる方法もあります
今は動かない
- メモを保存しておく。今の会社で、足りない経験を得られる担当や異動があるかを考える材料になります
- 今の会社に残るのも、比べたうえで選んだ答えです
まずは一枚メモの「担当できる仕事・役割」と「出社・時間・稼働条件」の2行を書いて、近い求人を一つ、または診断を一つ確かめてみてください。
独立も候補に入ってきた人は、登録だけで相談するときの不安を確認してから、希望条件を確かめやすい相談先を30代エンジニア向けのフリーランスエージェント比較で選ぶと進めやすいはずです。
会社員だったころ、外の数字が自分の話にならなかった理由は、今なら分かります。 比べる側の自分が、白紙のままだったからです。 メモに2行書けば、次に見る求人の数字は、少しだけ自分の話になります。









